「もう元気になってくれることはないんだな」

そう覚悟を決めたとき、飼い主ができることって、もう「少しでも苦しまず、気持ちよく過ごしてほしい」と願うことくらいですよね。

冷えないようにとフカフカの暖かいベッドを用意したり、毛布をかけてあげたり。でも、そんなこちらの思いとは裏腹に、猫がその暖かい場所からよろよろと何度も抜け出して、わざわざ冷たいフローリングや玄関のほうへ行こうとすることがあります。

「こんなに体が冷たくなっているのに、どうして?」 「寒くて余計に命を縮めてしまうんじゃ…?」

猫を大切に思っているからこそ、「無理にでも戻すべき?」「でも嫌がってるし…」と、どうしていいか分からずオロオロしてしまうのではないでしょうか。

元看護師として、そして実際に愛猫の看取りで同じ経験をして激しく動揺したひとりの飼い主として、最初にお伝えしたいことがあります。

その行動は、旅立つ準備をしている猫の体の中で起きている、ごく自然な「生体反応」なんです。

⚠️ はじめにお読みください(とても大切な注意点)

この記事でお話ししているのは、病気の終末期を迎え、獣医師とも相談した上でご自宅での「看取り」に向き合っている時期のケア(QOLの維持)についてです。

突然の体調急変や事故、感染症、ショック状態、真冬の寒さなどによる「急性期の低体温」の場合は、放っておくと命に関わるため大至急の保温と動物病院への受診が必要です。急に体が冷たくなってぐったりしている場合は、自己判断せず、すぐにキャリーを温めて獣医師の診察を受けてください。

体温が下がると、周りの暖かさが「暑くてたまらない」

命の終わりが近づいてくると、体は余分なエネルギーを使わないように、血流や心拍を少しずつ落としていきます。その過程で起きるのが「低体温(体温の低下)」です。

特に腎臓が悪くなっている子(腎不全や多発性嚢胞腎など)は、体内のバランスや代謝が崩れる影響もあって、旅立つ数日前〜直前にガクッと体温が下がりやすくなります。

じゃあ、体が冷えているなら温めてあげなきゃ!と思いますよね。でも、そうではないんです。

人間でも、インフルエンザの高熱の引き際や、自律神経が狂ったときに「布団をかぶっているのが息苦しくて、バッと払いのけたくなる瞬間」がありませんか? あれと同じで、体温調節機能が壊れてしまっている体にとって、私たちが「ちょうどいい暖かさ」と思って用意したベッドや毛布は、サウナの中に閉じ込められたような息苦しさや不快感になってしまうんです。

要するに、「本人はすごく暑がっている」ということ。

だから、残された力を振り絞ってでも、少しでも呼吸がラクな「ひんやりした場所」や「風が通る場所」を求めて、ベッドから這い出ようとします。

12年前の2月。看護師だった私も迷っていた

今から12年ほど前、私もこの「抜け出す行動」に直面して、どう対処していいか悩んだことがあります。

その子は8歳。「多発性嚢胞腎(PKD)」という病気を抱えていました。 食欲は落ち、どんどん痩せて体力は落ちていたけれど、最期の瞬間まで自分の足で歩こうとする力だけは残っていました。

いよいよお別れが近いと分かったのは、2月の真冬のことです。 暖房していても底冷えする2月。良かれと思って寝かせた暖かいベッドから、その子はよろめきながら何度も何度も抜け出しました。そして、わざわざ一番冷たい板の間のほうへペタッと寝転がろうとするのです。

「え、なんで!? こんなに寒いのにどうして!?」 「冷え切っちゃうよ、お願いだから入ってて!」

当時の私は本当に動揺して、オロオロするばかり。何度かベッドに戻しましたが、その子はそのたび抜け出しました。

私は看護師で、人間の終末期医療の経験もあります。でも、恥ずかしいことに、この時の私は愛猫の行動と「低体温」がまったく結びつきませんでした。

人間の現場では、低体温を起こすレベルの終末期になると、患者さんはもう自力で動けなくなっていることがほとんどです。だから、「低体温」で「自力でベッドから抜け出す人」はまずいません。

完全に盲点でした。歩く力が残っているからこその、自然な反応だったのです。

当時、生体反応のメカニズムを調べて、「あの子は寒かったんじゃなくて、暑くて苦しかったんだ」と私が気付いたのは、あとからです。

だから、もし今「温めてあげたいのに、冷たい床に行ってしまう」と悩んでいる飼い主さんがいても、どうか自分を責めないでください。医療の知識があっても見落とすくらい、命の反応って不思議で、思い通りにはいかないものです。

冷たい床に行きたがる時、飼い主ができること

猫のことが大好きなあなたなら、「本人が嫌がっているなら無理強いはしたくない」と思うはず。でも、硬くて冷たいフローリングにそのまま転がしておくのも、やっぱり見ていて胸が痛みますよね。

そんな時は、「猫の行きたい場所を邪魔せず、冷えすぎとケガだけ予防する」というスタンスで付き合ってあげるのが、猫ちゃんにとっても飼い主さんにとってもいいのではないかな、と思います。

例えば、

  • 温度のグラデーションを作っておく部屋全体を暖めすぎず、フカフカ毛布のゾーンと、ひんやりしたシーツやタオルのゾーンを隣り合わせで作っておきます。「選べる状態」にしておいてあげるイメージです。
  • 薄い布を1枚敷いてあげる冷たい床に行きたがるなら、床のひんやり感は邪魔しない程度の「薄手の綿シーツ」や「薄いタオル」をその場所にサッと敷いてあげます。硬い床で体が痛くなるのを防げますし、よろけて倒れた時のクッションにもなります。
  • 全身を包まず、お腹や腰にだけフワッと布をかけるもし体が冷え切っていて心配なら、全身をくるむのではなく、嫌がらない程度に背中や足元にだけ小さなタオルを軽く乗せてあげるくらいにとどめます。
  • ぶつかりそうな物はどけておく目も見えにくく、足元もおぼつかない状態で冷たい場所を探して歩くので、家具の角やコード類など、ぶつかったり引っかかったりしそうな物は片付けてあげてください。

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まとめ|その子の「一番ラク」を信じて見守る

愛猫を看取る時間は、毎分毎秒が不安の連続です。「これで合っているのかな」「もっと何かしてあげられるんじゃないか」と、頭の中で自問自答ばかりしてしまいます。

でも、暖かい場所から抜け出そうとするのは、その子が今、自分の命と向き合って「ここが一番ラクなんだよ」と教えてくれているサインです。

無理に暖かい場所へ閉じ込めなくて大丈夫。

その子が選んだ冷たい場所のすぐそばに座って、声をかけたり、そっと背中に手を添えてあげたり。

それだけで十分、その子には伝わっています。私もそう信じています。

この記事を書いた人<ゆうか@ねこのて>

30匹以上の保護猫たちと暮らしてきた、元看護師・保健師です。 長年の多頭飼いと医療現場の経験を活かし、人と猫が無理なく暮らすための「ナチュラルケア」を発信しています。
1つの答えを押し付けるのではなく、皆様の「選択肢」を広げるヒントをお届けできれば幸いです。

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